「熱狂」と「居心地の悪さ」について
今朝Twitterを開いたら、昨夜サッカーワールドカップの試合があって、日本チームが負けたそうだ。そしてこれでもう日本チームの試合は全部終了らしい。
そのニュースを読んで、僕はホッとした。
「あぁ、これで”熱狂”が終わる」
◇
誤解しないでほしいのは、僕は別に日本チームに負けてほしかったわけではない。
サッカー(というかスポーツ全般)に関心がない僕にとって、日本チームの勝敗は「勝った」or「負けた」という記号でしかないので、「勝ってほしい」という感情も「負けてほしい」という感情もどちらも持っていない。なので、僕は「日本チームが敗北した」という事実自体には感想がない。
ただ、世間に満ちていた「熱狂」が終わること、そのことに大きな安心感を抱いただけだ。
◇
僕は、社会や共同体が「集団で熱狂している状態」がとても苦手だ。
集団で飛び上がって歓喜したり、みんなで涙を流したりしている映像を見ると、なんとも心がゾワゾワする。僕は報道番組や情報番組が好きなのだけれど、ワールドカップ期間中は普段通りテレビをつけてそういった番組を観ていても、ふいにそうした「集団熱狂」の映像が流れてくる。そして慌ててチャンネルを変える。
結果的に、ここしばらくはテレビを落ち着いて観られないし、気になっているニュースがあってもそのニュースに割かれる時間が短くなるので、ニュース番組自体もつまらなく感じてしまう。
だから、日本チームが負けて「集団熱狂」が終わったことにとてもホッとしたのだ。
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なぜ「集団熱狂」が苦手なのかは自分でもよく分からない。別に多くの人が一緒に喜びあったり、悲しんだりすることを悪いことだと思っているわけではない。
おそらくだけれど、自分が「集団熱狂」することがないから、その感覚が分からなくて、その分からなさに心理的恐怖というか居心地の悪さというか、そういった負の感情を抱いてしまうのではないか、という気がしないでもない。
あとは、メディアが「集団熱狂」を報じる際の「これが今の”みんな”の気持ちです!」という同調圧力的な雰囲気も苦手なのだと思う。
「がんばれニッポン!」と人々が叫ぶ。ニッポン人がニッポン人を応援するその言葉のどちら側にも、日本人である自分が心を寄せる気になれない気持ち悪さ。
よく分からないけれど、そういった色んなものがあるのだと思う。
◇
「みんな」が楽しんだこと、盛り上がったことについて、わざわざそんなこと書かなくてもいいじゃないか、という声がありそうで、僕もそう思わなくはない。でも、このニュースレターは僕が書きたいことを書く場所で、僕は今この心の様子を書き残しておきたいと思ったのだから、書いてもいいよね。
それに、「みんな」が「熱狂していることになっている」状況において、その熱狂にある種の恐怖や居心地の悪さを感じている人がいることは、共有しておいてもよいことかもしれない。
◆◆◆
最後に、ここまでの話とは直接の関係はないけれど、今回のカタールでのサッカーワールドカップに関しては、外国人労働者や性的マイノリティに対する人権侵害の問題がヨーロッパを中心に世界で報じられている。
それにも関わらず、日本チームの選手やメンバー・関係者が、この問題に対して(僕の知る限り)何の声もあげていないことをとても残念に感じている。
たしかにこの問題に関しては、ヨーロッパ側の中東への差別的な視点も一部にあるのではないかといった議論もされていて(さらに日本の多くのメディアが詳しくは報じないこともあり)、立場を明確にするのは難しい問題かもしれない。
ただ、少なくとも「人権侵害は許されない」と言うことは出来る。
どんなにサッカーが上手でも、自分が大いに関わっている大会に関する問題を世界が議論している中で、「自分の言葉で自分の意見が言えない」人間を僕は尊敬しない。
昨夜の試合後、インタビューでひとりの選手が「今回の自分たちの姿をみて、サッカーをしたいと思う子どもたちが増えてくれたら嬉しい」と語っていた(チャンネルを変える前に聞いた)。でも僕は、スポーツ選手を目指す子どもたちには、まずは「自分の言葉で自分の意見が言える」人間になってほしい。
世界中の人々の人権が当たり前に保障にされるようになってこそ、真にスポーツを楽しめる世界になるはず。日本代表選手にもそれを目指す子どもたちにも、スポーツ選手である前に、一人の人間として社会の問題と向き会える人間になってほしい。
昨年のオリンピックでも今回のサッカーワールドカップでも、そう強く思ったので書き残しておきます。
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