こんにちは。中村佳太です。
気候変動に対する危機意識の高まりを強く感じるようになってきました。グレタ・トゥーンベリさんら環境活動家に注目が集まり、国内でも若者たちを中心に声をあげる人々が増えてきています。気候変動は最近では「気候危機(Climate Crisis)」とも呼ばれ、人類全体の存続に関わる「危機」であるとの認識が定着しつつあります。
アメリカのバイデン新大統領は就任直後に「パリ協定」復帰の大統領令に署名し、日本の総理大臣もついに「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)」の方針を発表、先行するヨーロッパ諸国とともに世界が脱炭素社会へと大きく動き出しているのを感じます。
僕はこの動きに大いに賛同しています。世界中の政府、企業、市民が共同でこの問題に取り組み、脱炭素社会を実現しなければならないと考えています。
ただ、(賛同は前提としつつも)気候危機の問題について考えるとき、その危機の恐ろしさとは別に、僕にはいつもひとつの不安がつきまとってきます。今回はそのことについて書こうと思います。
その不安とは一言で言うと次のように表現できます。
「温暖化が止まらない場合にどうするか、みんな考えてる?」
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僕は学生時代、修士課程まで「地球惑星科学」という学問を学び、研究していました。「惑星系形成論」という領域を研究していたので「気候」は専門ではありませんでしたが、隣接領域でした。その知識から考えたとき、極めて複雑な実際の地球環境の時間変化を予測することは並大抵の難しさではありません。考慮しなければならない要素が多すぎるからです。
実際、僕が研究室にいた15年ほど前は、地球温暖化が人間の排出する温室効果ガスを原因とするものなのかどうかは科学者の間でもそれなりに「意見が分かれる」問題でした。事実、僕は「地球温暖化は人類のせいではなく、気温の上昇は自然界の現象によって引き起こされている」と主張する地球科学の教授の授業を受けたことを覚えています。
ただ、その後温暖化の研究は進み、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)において科学者たちは「地球温暖化は人間の排出する温室効果ガスが主原因である」と結論づけました。だからこそ世界は脱炭素社会へ動き出しているのであり、グレタさんもバイデンさんも「科学に従って行動しよう!」と呼びかけているわけです。
僕もこの呼びかけに賛同します。ただ、賛同はするのですが、一方で注意したいのは、科学に100%は無い、ということです。地動説が唱えられた当時、主流の科学者はそれは誤りだと考えていたし、原子力発電にしても多くの科学者は事故など起きないと主張していました。つまり、「主流の科学者」や「多くの科学者」の意見が必ずしも正しいとは限らないのです。
誤解しないでいただきたいのですが、僕は「IPCCの結論が間違っている」とか、「間違いの可能性が高い」と主張したいわけではありません。IPCCの結論はほぼ間違いなく正しいでしょうし、一刻も早く脱炭素社会を実現すべくあらゆる手段を尽くすべきだと考えています。
ただ、繰り返しますが、科学に100%はありません。たとえ1%(0.1%でもいいです)だとしても誤りである可能性はあるわけです。僕が不安を感じるのは、この「たとえ1%だとしても誤りである可能性」にみんなが眼をつむっているように見えることです。
もしこの1%の方が正しかった場合、つまり地球温暖化の主原因が人間の排出する温室効果ガスではなかった場合、はたしてどうなるでしょうか。
今のまま脱炭素社会のみをゴールとして突き進んだ場合、気がついたときにはもはや手遅れ、人類に為す術は残されていない可能性が高いです。そうであるならば、気候変動対策に割くリソースの99%は脱炭素社会の実現に振り分けるとしても、残りの1%は他の原因である可能性を探る研究や、温暖化が止まらなかった場合の対策への技術開発などに割くべきではないでしょうか。
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「1%の可能性」についてひとつ参考としてあげておきたいのですが、2019年、神戸大学の上野友輔さんらはこれまで気候への影響を示す明確な証拠を得ることは困難だった「銀河宇宙線」(宇宙から飛来する高エネルギー粒子)が地球上で生成する雲について、「銀河宇宙線が生成する雲が気候変動の要因になる」ことを示す研究結果を発表しています。発表には以下のような記述があります。
気候変動に関する政府間パネル (IPCC) において、雲の気候への影響は評価対象にはされてきましたが、その影響の物理学的理解が不十分であるということで気候予測には考慮されてきませんでした。しかし、本研究成果は雲の気候への影響を見直すきっかけとなる可能性があります
つまり、地球温暖化の原因について、人間由来とは別の要因に関する新たな事実が判明したのです。もちろんこれで全てが覆るわけではありませんが、100%の力で脱炭素のみに突き進むことの危うさを示していると言えます。少数派の声であっても、こういった研究を無視してはいけないと考えています。
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さらにいえば、今後より一層世界が脱炭素社会へ向けて一生懸命取り組んだとして、それでも思ったように脱炭素が達成できない可能性もあります。つまり、「頑張ったけどダメだった」となることだって十分にあり得るわけです。そうなったときのプランBを世界は考えているでしょうか。
世界が一丸となって取り組むことは大切です。でも、100%の全力投球は危険です。リスク管理の観点からいっても、失敗したときの可能性は常に考えておかないといけません。
繰り返しますが、IPCCの結論(主流派科学者たちの結論)はほぼ間違いなく正しいでしょうし、僕も一刻も早く脱炭素社会を実現すべくあらゆる手段を尽くすべきだと考えています。
ただし、たとえ1%だとしてもそれが誤りである可能性は考慮する必要があるし、あらゆる手段を尽くしたとしてもダメだった場合についても考えておくことが大切だと思うのです。
グレタさんもバイデンさんも「科学に従え」と言うけれど、「1%の可能性」も忘れずに「気候危機のプランB」を用意しておくことこそ、真に「科学的な態度」といえるのではないか、僕はそう考えています。
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佳太さん
お、始まった! というちょっとワクワクした気持ちで読ませていただきました。
無知な僕にもわかりやすく書いてくれてはる!というのが、まず、嬉しい気持ち。
何事もものごとを進めていく上で、プランAがあかんかった時、プランBを考えてるか考えてないかで、そのひと(チーム)のやり遂げる力量はまっっったく違う!
っていう共感をしました。
このプランBのことは、僕の海外出張(買い付け)の時に、上司から経験(体感)をさせてもらい、めちゃくちゃ大事やなー!!って教えてもらいました。
まだ身に付いてないですが…
そして、そのプランBに移して進むにも、めちゃくちゃたくさんの「準備」が必要。
中田英寿のように、世界中の人々が “準備の天才”になって、この「危機」を乗り越えていかないといけない。ですね。
その為にはまず知ることから。
ん、いや…
知ることはもう十分…⁈ 知ることは後からでも良い…
行動あるのみ!!
何しよう…?(考える)
仕事帰りのバスの中より
サイカタカユキ
第1回、とても大事なポイントだなと思いながら拝読しました。只、そう思う自分は既に気候変動はほぼ科学的に正しいだろうという立場であるからそう思うんだと思う一方、温暖化そのものを認めない立場の人には全く耳に入らないんだろうなとも思いました。また温暖化阻止ができなかった場合の対策案とかは、人間の排出する温室効果ガスが温暖化の原因ではないとおもっているが温暖化そのものは認めている人も共に考えていけるのかなと思ったりもしました。